転職活動を進める中で、「やっぱりこの会社は違うかも」「他社で内定が出たから辞退したい」と考える場面は誰にでも訪れます。
しかし、転職エージェント経由で応募している場合、「せっかく紹介してもらったのに断りづらい」「辞退したら怒られるのではないか」と不安を感じ、言い出せずに悩んでしまう方も少なくありません。
結論から言えば、選考辞退や内定辞退は可能です。職業選択の自由は誰にでもあります。
しかし、その伝え方やタイミングを一歩間違えれば、これまでの信頼を一瞬で失い、最悪の場合、業界内での将来のキャリアまで閉ざしてしまうリスクがあることをご存知でしょうか。
この記事では、転職エージェントを利用した際の正しい辞退のマナーと、安易な辞退が招くリスクについて、業界の裏側を知るプロの視点で解説します。
自分本位な判断で後悔しないために、社会人として恥ずかしくない「大人の振る舞い」を身につけておきましょう。
目次
選考辞退と内定辞退の定義と違いとは?

転職活動における辞退には、大きく分けて2つの種類があります。
どちらも「選考プロセスから降りる」という意味では同じですが、そのタイミングによって、企業やエージェントに与える影響の大きさは異なります。
まずは、それぞれの定義と違いを正しく理解しましょう。
面接・選考辞退: 書類選考中や面接の前後など、内定が出る前に降りること
面接・選考辞退とは、企業から内定をもらう前の段階で、自ら選考を終了することです。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 書類選考後: 書類選考通過の連絡をもらったが、面接には進まない。
- 面接後: 一次面接を受けたが、二次面接は受けない。
- 日程調整後: 面接の日程が決まっていたが、キャンセルする。
この段階であれば、まだ雇用契約に向けた具体的な手続きは進んでいないため、比較的スムーズに辞退が認められます。
企業側も、選考過程で候補者が辞退することはある程度想定しています。
しかし、注意すべきは辞退のタイミングです。
例えば、面接日程を組んでもらった直後のキャンセルや、面接当日に連絡なく欠席する「ドタキャン」は、企業の採用担当者や面接官の時間を一方的に奪う行為です。
こうした行動は、社会人としてのマナー違反と見なされ、あなたの印象を著しく損ないます。
内定辞退: 企業からの内定通知を受け取った後に、入社を断ること
内定辞退とは、企業からの正式な採用通知を受け取った後、最終的に入社を断ることです。
このフェーズでは、選考辞退に比べて重みと責任が格段に増します。
なぜなら、企業側は「あなたを採用する」という最終決定を下し、以下のような具体的な受け入れ準備を進めている可能性が高いからです。
- 他の最終候補者への不採用通知
- 入社手続きのための書類準備
- 配属部署での受け入れ体制の調整
- 採用活動の終了と次の採用計画への移行
つまり、あなたの内定辞退は、単に一つの枠が空くだけでなく、企業の採用計画全体に影響を及ぼすのです。
場合によっては、一度不採用にした他の候補者に再度連絡を取ったり、採用活動を一からやり直したりする必要が出てきます。
どちらの辞退も法的に禁止されているわけではありませんが、「いつ辞めるか」によって、周囲にかける迷惑の度合いが大きく変わることを認識しておく必要があります。
安易な辞退を行うとどうなるか?あなたとエージェントに与える影響

「辞退は権利だから、別に問題ないでしょう?」
そう考えるのは、少し危険かもしれません。確かに職業選択の自由は法的に保証されていますが、その権利の行使には社会人としての責任とマナーが伴います。
特に、転職エージェントを介した場合、その辞退の仕方がもたらす影響は、あなたが想像している以上に広範囲に及びます。
自分自身の未来だけでなく、サポートしてくれたエージェント、そして応募先企業との関係にまで、消すことのできない傷跡を残してしまう可能性があるのです。
まずは、不誠実な辞退があなた自身にどのような影響を及ぼすのか、具体的に見ていきましょう。
【自身への影響】信頼を失い、同エージェントから次の求人紹介がなくなる
転職エージェントのキャリアコンサルタントは、求職者一人ひとりの信頼残高をシビアに見ています。
時間を守る、連絡をきちんと返す、真摯に選考に臨むなどの一つひとつの行動が、信頼残高を積み上げていきます。
しかし、連絡なしに面接を欠席したり、内定が出た途端に音信不通になったり、失礼な態度で辞退を伝えたりする行為は、この信頼残高を一瞬でゼロ、あるいはマイナスにしてしまいます。
コンサルタントは「この人は紹介しても、また同じように企業に迷惑をかけるかもしれない」「責任感を持って転職活動に取り組めない人だ」と判断せざるを得ません。その結果、どうなるでしょうか。
優良な非公開求人が回ってこなくなる
企業の役員クラスが関わるような重要なポジションや、応募が殺到する人気ブランドの求人は、最も信頼できる求職者にしか紹介されません。信頼を失った時点で、そうしたチャンスからは遠ざかります。
サポートの優先順位が下がる
多くの求職者を抱える中で、当然ながら熱意と誠意のある人に時間を割きたいと考えるのが人間です。対応が後回しにされ、転職活動がスムーズに進まなくなる可能性があります。
サービスの利用停止
度重なるマナー違反や不誠実な対応があった場合、他の求職者や企業への悪影響を防ぐため、エージェントからサービスの利用を断られるケースも実際にあります。
一度失った信頼を取り戻すのは、転職活動を再開するよりもはるかに困難です。
【関係性への影響】エージェントとブランドの信頼関係が崩れ、推薦枠が消滅する
あなたの行動は、あなた個人だけの問題では終わりません。エージェントと企業の長年にわたる信頼関係をも破壊する力を持っています。
転職エージェントの営業担当は、何年もかけて企業の採用担当者と関係を築き、「アプライムさんが推薦する方なら、ぜひお会いしたいです」という信頼を勝ち取っています。だからこそ、一般には公開されない特別な「推薦枠」が生まれ、時には書類選考が免除されることもあるのです。
しかし、その特別なルートで紹介されたあなたが無断キャンセルをすれば、採用担当者はどう思うでしょうか。
「アプライムは、候補者の管理もろくにできないのか」
「あそこのエージェントからの紹介は、今後慎重に検討しよう」
このように、エージェント会社そのものの信用が失墜します。その結果、その企業への推薦枠自体が消滅、あるいは縮小してしまう可能性があります。あなた一人の軽率な行動が、後からその企業を目指す他の真面目な求職者たちの道を、知らず知らずのうちに閉ざしてしまうことになるのです。
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業界は意外と狭い。「マナー違反」の噂は他社の人事にも広まるリスクがある
「今回応募した会社と縁が切れるだけ」と考えているなら、それも大きな間違いです。特にファッション・ラグジュアリー業界のように、専門性が高く人の流動が活発な世界は、あなたが思う以上に狭いコミュニティで成り立っています。
人事担当者たちは、ブランドの垣根を越えて勉強会や交流会で情報交換をしています。そこで、「先日、〇〇というエージェントから紹介された候補者に無断キャンセルされてね…」といった話題が出ることは決して珍しくありません。
特定の個人名まで出なかったとしても、「マナーの悪い応募者がいた」という事実は、悪評として業界内にじんわりと広がっていきます。
もし将来、あなたがキャリアを積んで、本当に憧れていたブランドに挑戦しようとした時、面接官があなたの過去のマナー違反を知っている可能性はゼロではないのです。
一度ついたネガティブなレッテルを剥がすのは、非常に困難であることを肝に銘じておくべきです。
【実際にあった事例】連絡なしの面接辞退が招いたトラブル

「たかが面接を一度休んだくらいで…」と思うかもしれません。しかし、その「たかが」が、多くの人の時間を奪い、信頼関係を破壊する引き金となります。
ここでは、実際に弊社で発生した事例をもとに、連絡なしの辞退(無断キャンセル)がどのようなトラブルを招き、最終的にその求職者がどのような末路を辿ったのかを詳細にお伝えします。これは決して他人事ではありません。
事例の概要: 面接当日に現れず、連絡もつかない「無断キャンセル」
ある20代の求職者Aさんのケースです。Aさんは、ラグジュアリーブランドの書類選考を通過し、一次面接の日程が決まっていました。弊社も太鼓判を押し、企業側も多忙なスケジュールの合間を縫って面接官の時間を確保していました。
しかし、面接当日の約束の時間になっても、Aさんは現れませんでした。
オンライン面接のURLにアクセスもなく、電話も繋がらない。エージェントが慌てて何度も連絡を試みましたが、応答はありません。結局、その日は面接が行われることなく終了しました。Aさんにとっては「もう行く必要がない会社」だったかもしれませんが、この行動が大きな波紋を広げることになります。
エージェント側の被害: ブランドへ謝罪するも信頼失墜。他の方を紹介できなくなる
この件を受け、弊社エージェントは直ちにブランドの採用担当者へ謝罪を行いました。しかし、多忙な面接官の時間を無駄にし、連絡すらつかないままキャンセルとなった事実は重く、ブランド側からの信頼は大きく損なわれてしまいました。
結果として、これまで築き上げてきた良好な関係性に深い亀裂が入り、しばらくの間、同ブランドへ他の優秀な候補者をご紹介しても、以前のような信頼を持って迎え入れていただくことが難しくなってしまったのです。
たった一人の無責任な行動が、エージェント会社全体の信用を傷つけ、真面目に転職活動をしている他の登録者のチャンス(推薦枠)まで奪うことになってしまいました。
求職者側の末路: 同グループ内での心証が悪化し、将来的な応募も不可能に
辞退したAさん自身への影響も深刻です。ファッション・ラグジュアリー業界は、ブランド同士が同じ巨大コングロマリット(企業グループ)に属しているケースが多く、人事情報が共有されていることも珍しくありません。
今回の「無断キャンセル」という事実は、応募したブランドだけでなく、そのグループ全体において「採用リスクのある人物」としての記録を残してしまった可能性があります。
「たかが一度の面接」と思うかもしれませんが、業界内での評判は瞬く間に広まります。いざ将来、本当に憧れのブランドに挑戦しようとした時に、過去の自分の行動が足枷となり、書類選考すら通過できないという事態を招きかねないのです。
致し方なく辞退する場合の大人としてのマナーと対応法

もちろん、転職活動は複数の企業を同時に受けるのが一般的であり、全ての選考に進むわけにはいかないのも事実です。家庭の事情や健康上の理由で、どうしても辞退せざるを得ない場面もあるでしょう。
辞退そのものは決して悪ではありません。重要なのは、「終わり方が、次の始まりを決める」という意識を持つことです。
誠実な対応をすれば、たとえ今回は縁がなかったとしても、将来的な良い関係に繋がる可能性があります。
社会人として恥ずかしくない、正しい辞退のマナーを3つのステップで解説します。
迷ったら放置しない。決断したら「1分1秒でも早く」連絡するのが鉄則
辞退を決意した場合、最も重要なのはスピードです。「言いづらいな…」と連絡を先延ばしにすることは、関係者全員にとって最も迷惑な行為です。
採用担当者は、あなたの面接のためにスケジュールを確保し、他の候補者の選考を調整しています。あなたが早く連絡をすれば、その空いた時間を他の候補者のために使ったり、面接官の予定を組み直したりすることができます。
「辞退するかどうか、まだ少し迷っている」という段階でも、正直にその旨をエージェントに相談しましょう。
一人で抱え込まずに現状を共有することで、エージェントも企業側への伝え方を考える時間ができます。「悪い知らせほど早く」というのは、ビジネスにおける鉄則です。
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メールやLINEで記録を残しつつ、必ず「電話」で丁重に謝罪と感謝を伝える
辞退の連絡は、メールやLINEだけで済ませてはいけません。テキストだけの連絡は、一方的で冷たい印象を与えがちです。社会人としての誠意を示すためには、必ず自分の声で直接伝えることが不可欠です。
- まずは電話で連絡: 担当コンサルタントに直接電話をかけ、辞退の意思を伝えます。まずは選考の機会をくれたことへの感謝と、辞退することへの謝罪を述べましょう。
- 担当者不在の場合: もし担当者が不在であれば、伝言をお願いすると同時に、メールかLINEで「お電話しましたがご不在でしたので、改めてご連絡します」と一報を入れます。無断で他の人に辞退の旨を伝えるのは避けましょう。
- 電話後にメールで補足: 電話で伝えた後、改めてメールでも連絡を入れます。これは「言った・言わない」のトラブルを防ぐ記録としての役割と、電話では伝えきれなかった感謝の気持ちを改めて文章で示す意味があります。
電話という「声のコミュニケーション」と、メールという「記録に残るコミュニケーション」を組み合わせることが、最も丁寧で誠実な対応です。
理由を曖昧にせず、正直に伝えることが次のチャンスに繋がる
辞退理由を伝える際、「一身上の都合で」といった曖昧な言葉で濁すのは避けましょう。不信感を与え、不誠実な印象を残してしまいます。
もちろん、他社の悪口を言う必要はありませんが、なぜその決断に至ったのかを正直に、そして前向きな言葉で伝えることが大切です。
| 【悪い伝え方の例】 「もっと給料の良い会社があったので」 「御社の社風が自分には合わないと感じました」 (→相手への配慮がなく、自分本位な印象を与える) |
| 【良い伝え方の例】 「他社様から内定を頂き、自分の将来のキャリアプランと慎重に照らし合わせた結果、大変恐縮ですが、そちらにお世話になる決断をいたしました」 「〇〇という分野での専門性をより深く追求したいと考え、その環境がより整っていると感じた他社様とのご縁を大切にしたいと思っております」 (→他社を尊重しつつ、自分のキャリア軸に基づいた決断であることを誠実に伝えている) |
誠実な対応は、たとえ今回ご縁がなくても「この人はしっかりした人だ」という良い印象を残します。
将来、別のポジションで声がかかったり、何かの形で再び仕事で関わったりする可能性もゼロではありません。どんな時も、誠実な姿勢を忘れないことが大切です。
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まとめ|辞退は悪ではない。ただ礼儀は忘れてはいけない

転職活動における選考辞退や内定辞退は、誰にでも起こりうることです。辞退すること自体が悪なのではありません。
問題は、その伝え方です。
不誠実な対応は、あなた自身の信頼を損なうだけでなく、サポートしてくれた転職エージェントや、真剣に向き合ってくれた企業の顔に泥を塗ることになります。たった一度の軽率な行動が、業界内での評判を落とし、未来のキャリアの選択肢を狭めてしまうリスクがあることを忘れてはいけません。
もし辞退の決断に迷ったり、どう伝えれば良いか分からなくなったりしたら、まずは一人で悩まず、担当のキャリアコンサルタントに相談してください。彼らは転職のプロであると同時に、あなたのキャリアを共に考える仲間でもあります。正直に状況を話せば、きっと最善の解決策を一緒に見つけ出してくれるはずです。
辞退という局面においても誠実な対応を心がけること。それこそが、社会人としての信頼を守り、最終的にあなたのキャリアを豊かにすることに繋がるでしょう。


